鑿研ぎ練習 番外編 :丸刃直し
このブログを始めてから1年半近くが経過しましたが、開設当初に比べると少しずつ読んで下さる方も増えてきて、メールを頂戴する機会も多くなりました。特に研ぎに関してのご質問をよく頂いています。ただ私自身が修行中でありますので、満足していただけるような回答が出来ないこともありますが、壁にぶつかってしまった方は遠慮無くメールをして下さればと思います。おそらくその壁は私自身も経験しておりますので、何かしらのヒントを差し上げられる様な気がいたします。
ところで今回はいつもの鑿研ぎ練習の番外編として、丸刃になってしまった鑿を平面に研ぎ直していく様子をご紹介しようと考えました。
今ご覧頂いている写真がその直す前と直した後の様子を写したものになります。この鑿は今日の午前中に友人から借りてきました。友人は私とは違ってプロではありませんが、現在鑿研ぎの特訓をしているとのことです。話には聞いていましたが、それなりに研ぎ込んでいることは鎬を見れば分かります。完全に丸刃ですが、それでもマシな丸刃です。何かをつかみ始めている感じです(笑)
趣味とはいえ、手仕事と指物技術の習得に貪欲で、常に新しいことに挑戦する友人ですので、おそらく研ぎさえマスターすれば私などはいとも簡単に追い越されてしまうことと思います。
では、丸刃を直していく過程です。
直す前、借りてきた状態です。
切っ先の刃角は41度でした。鎬全体を見てみるとそれほど角度はついていませんが、切っ先だけが異常に鈍角になってしまうのが丸刃の特徴です。これでも刃がつけば切れますが、長切れはしませんし重いです。何よりも次の研ぎが大変です。
砥石に乗せる前にグラインダーで鎬の中ほどをすき取ってしまう方法もありますが、気を付けないと焼きを戻してしまう可能性がありますし、ちゃんと研ぎを習得したい方にはお勧めしません。一度楽をしてしまうと丸刃になるたびにグラインダーに手を伸ばしてしまうことになると思います。平面には研げても砥石だけで丸刃を直せないようでは研ぎの技術としては不完全です。ただし、平面に研ぐ感覚を知るにはグラインダーを使用することもある程度有効だと思います。
時間はかかりますが、荒砥から始めてみます。使用しているのは「あらと君」です。
普段は荒砥としての用途より、大きく崩れた砥面を直すのに使っています。
「あらと君」の面が崩れたときは、2丁の4面を共摺りして修正しています。
鎬の右側から平面になりだしているのが分かるかと思います。
とりあえず丸刃を限りなく平面にしたいだけのときは、
“刃先を11時、柄を5時の方向”を目安にして鑿を構えると安定して研げます。
ストローク自体は斜めではなく、砥石と平行方向にするのが良いと思います。
高い部分をひたすら研ぎ減らさなくてはいけませんので、特に角度は考えず、自分の一番研ぎやすい角度で
研ぎ進めれば良いと思います。角度を変えるのはある程度平面に近づいてからで構いません。
刃先の約1ミリを残してほぼ平面になってきました。
右上角がまだ少し残っています。
平面になりました。
ある程度の平面が出てきたら、往復のストロークではなく、押すか引くかのどちらかに絞るとより完全な平面を出しやすくなります。
私の場合、起こしたいときは引き、寝せたいときは押し、を重点的にしています。
はじめからどちらか一方のストロークで直しても良いのですが、うんざりするほど時間がかかります。でも有効です。
これで荒砥での研ぎは終了です。
時間にして1時間半くらいかかりましたが、半分以上は面直しに費やしたと思います。
鎬を平面にするのは大変ですが、丸刃になるのは一瞬です。早目早目に面を修正してください。
どんなに硬くて減りがたい砥石でも、厳密には1ストロークで面が崩れます。
刃の黒幕#1000です。
右下角からうっすらと平面が崩れ始めてきました。
「あらと君」の砥面と、黒幕の砥面の平面精度が微妙に違うのでこの様になっています。
刃の黒幕#2000です。
右下角の乱れがほんの少し残っていますが、このくらいなら仕上げ砥でも直ります。
北山#8000です。
完全に平面になりました。
刃先の角度は32度になりました。これが特に意識をせずに仕上がる私の研ぎ角のようです。
練習用の鑿は33度をキープして研いでいますが、油断すると寝てくる理由がここにありました。
一度平面になった刃物を崩さずに研ぐことは経験を積めばそれほど難しいものではありません。
砥石が平面になってさえいれば、“鎬自体が治具になる”からです。
ですが、丸刃になったものを平面に直すのはとても難しく大変です。
毎朝の練習は“平面に綺麗に研ぎ続けること”へと目的が変わり始めていますが、
今回丸刃を直してみたことで、それなりに研ぎの技術が身についてきたことを実感しました。
平面に研ぐことはとても大切です。ですが、それが正解でもゴールでもありません。
平面に研ぎあげるほど刃は欠けやすくなりますし、仕事では使いにくくなってきます。
平面であるとか綺麗であることはどうでも良いことなのですね、実際は。
しかし、平面に研ぐ技術が無ければその先の“より長く、より切れる刃”へと発展出来ないのもまた事実です。
追記 2013.9.26
*この記事の半年後に今回とは違う鑿で再度丸刃を直してみましたので、そちらも良かったら合わせてご覧下さい。
追記 2014.9.27
*この記事とは直接関係ありませんが、いつも練習で研いでいる追入れの8分鑿を研いでる動画も撮りましたので良かったらご覧下さい。
鑿研ぎ練習 番外編 :丸刃直し 続編その2[ 2013-09-26 20:26 ]
鑿研ぎ練習 番外編 :片研ぎと丸刃直し[ 2013-10-28 22:11 ]
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鑿研ぎ練習 番外編 (動画):1分鑿と5厘鑿の研ぎ[ 2014-07-12 20:21 ]
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砥石の上に鑿が立つ:鑿研ぎ練習 番外編 2015.10.01[ 2015-10-01 18:17 ]
この鑿研ぎ練習のカテゴリに関連する記事を載せておきます。
鑿研ぎ #1[ 2012-02-10 22:29 ]
木工 藤原次朗[ 2013-05-17 23:22 ]
私の思い[ 2013-05-24 18:37 ]
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仕込み:追入鑿の四厘と、向待鑿の一分五厘[ 2012-11-14 20:32 ]
底さらえ鑿の一分五厘[ 2012-12-11 17:44 ]
刃の黒幕#1000:砥石メモ①[ 2012-12-18 19:57 ]
刃の黒幕#2000:砥石メモ②[ 2012-12-26 17:15 ]
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by Jiro.Fujiwara |
by atelier_teo
| 2013-03-27 20:40
| 鑿研ぎ練習 番外編